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「悪作劇之吻(1&2)」 もう一つのエンディング(創作) 


スコットランド。
そして、ノーブル医学賞の受賞者として、紹介される直樹。
夫婦連れの各部門の受賞者たちの中、幼い娘と手をつないで現れる直樹。
受賞者たちのスピーチが続く。
 
直樹が紹介される。
 
「ノーブル医学賞としては、最年少の受賞者のドクター入江直樹教授です。若くして、いくつもの難病の治療法を確立。その上、他の医学機関や研究チームから依頼があれば、惜しむことなくその卓越した知識と洞察力で、アドバイスを行なうなど、医学の発展に大きく寄与し続けております。特に、遺伝子学の第一人者として、先天性の病理解明に大きな貢献を果たし、医学の歴史を100年は進めたといわれております。その功績を称え、ここにノーブル医学賞を授与するものです」
 
盛大な拍手の中、幼い少女をともなって直樹はマイクの前に立つ。
 
(琴子……)
 
期せずして、琴子との出会いが走馬灯のように蘇り、直樹は戸惑った表情をする。
そして、よぎる不安定な気持ちを抑えるように深呼吸をした。
 
(お前と会えていなければ、オレはここにはいなかった)
 
一礼をして、涼やかな鋭い瞳が場内を見渡す。
 
「私が、医学の道に進み、遺伝子に関心を持つことが出来たのは、妻との出会いがなくてはありえないことでした」
 
医大の研究論文発表の時、直樹は琴子を紹介したことを思い出す。
 
「成績別でクラスが分かれていた高校時代、上位クラスの私と、劣等生だった彼女の世界は本来、接点がなく、決して交わることのない対極の立場にありました。彼女の努力がなければ、私が妻を愛することはなかったはずです」
 
あの時、かたわらには戸惑った顔をして自分を見上げていた琴子がいた。
今は娘の琴美が隣にいる。
小さな手をそっと握りながら、見上げる娘にやさしく「大丈夫か?」と目で問いかける。
琴美は気丈な顔をしてコクリとうなずいた。
 
「私は本来感情のままに生きる人間が嫌いであり、苦手でした。出来もしない、天文学的に確率の低いものごとに挑むドンキホーテのような無謀な人間は、かかわりさえ持ちたくない見下すべき対象で、彼女がまさにそうした存在でした。しかし、彼女は卓越した努力と言う能力で奇跡を起し、常にかかげた目標をやり遂げてみせたのです。努力することもなく成長してきた私にとっては、その目覚しい成長は新鮮な出来事であり、やがて、静かで退屈な日常を取り戻すより、まとわりついてくる彼女という試練に立ち向かってみるほうが面白いと思う気持ちがわいたのです」
 
静かに聞き入る人の顔や表情を直樹は一人一人見る余裕さえあった。
 
「ある時、入退院を繰り返す難病を抱える少年と出会い、彼女は自分にはどうすることも出来ないけれど、あなたは医者として大勢の人を助けることが出来る、と真剣にそう言ったのです。その言葉に、進路を迷っていた当時の私は自分の歩むべき道を見つけた思いでした。医大へ進路を変更し、彼女と結婚し、医者となり、小児遺伝科への関心を抱いた時、妻が先天性の目の疾患を患っていることを知りました」
 
直樹は、琴子の絶望的な悲しみを知った日を思い出す。
 
「あの時、私はきっとこの試練は越えられると不思議にもわかりました」

妊娠していたとわかったのはその直後だった。 
その命は、いま直樹の手を握り返している。

会場のどよめきに直樹は、少し微笑んで首を横に振る。
 
「直感や、根拠のない思い込みは、私の最も嫌うところです。ですが、彼女の遺伝子が私を見つけ、医者の道へ向わせたのなら、この難病の治療法を確立できるのはきっと私なのだと、わかったのです。真っ直ぐに私に好意を示し、しがみつき、まとわりつき、嫌われることを恐れ、離れまいと常に弱気で臆病だったのは、妻自身さえ気がついていない彼女の遺伝子の力に起因するのではないかと。もちろん遺伝子そのものに意志が存在するとは考えにくい。それでも、妻の遺伝子が、治療法を確立できる私という人間を見つけ、医者としてその道へと導いたのなら、この試練は越えられる。大丈夫だと信じられたのです」
 
その治療法の確立こそが、今回の受賞の理由の一つであることは、すでに誰もが知るところだった。
 
「愛する一人を救うことが、同じ病で苦しむ人々を救うことになる。医者になってよかったと、心から思えました。彼女なくしては今日のこの日はありえません」
 
直樹と視線のあった顔見知りの学者たちが、意味ありげに苦笑しうなづく。
琴子の自覚のない不注意な行為により、巻き添えをくらい、空前絶後のトラブルに見舞われながら、奇跡を体感した数少ない人々だった。
 
「妻は私の生涯で最愛の女性です」
 
直樹が天を仰ぐように視線をさまよわせる。
 
(お前は、神様に愛されているよな?)
 
ゆっくりと瞼をとじて、次の言葉を言いかけたとき、主催者が登壇してきて直樹に握手を求めてきた。
スピーチの途中の出来事に、直樹をはじめ会場の人々が戸惑いの表情を見せる。
 
「ドクター・イリエ。ビッグ・サプライズだ」
 
その声と共に会場のライトが落とされ、背後の巨大スクリーンにある映像が映し出された。
 
「入江くーん!」
 
琴子の声に直樹がスクリーンを振り返る。
そこには、病室にいる琴子と入江家の家族が映し出されていた。
琴子と、直樹の母の腕の中には、産着を着た双子が抱かれている。
 
「入江教授の奥様が、先ほど双子のお子さんを無事出産されました。母子共に健康状態は良好です」
 
主催者の興奮した声に、会場がわれんばかりの拍手と歓声で包まれる。
 
一時は、母子共に命に危険があることも告げられていただけに、直樹は安堵のため息を吐きながら、琴美を抱き上げてスクリーンを指差す。
琴美は少し得意気な顔をしてみせた。 
 
「入江君の授賞式に行きたかったよぉー!!」
 
歓声でかき消される声も、琴子の少し寂しげな顔と口元を読み取って、直樹は聞こえているよとうなずく。
病室にも会場の様子が映し出されているモニターがあるらしく、琴子は直樹と琴美を見つけて懸命に手を振っている。
 
「早く会いに来てねー! おめでとう!!」
 
直樹は微笑む。
会場はいつしかハッピーバースディーの大合唱が起こっていた。
大勢の人々が直樹に駆け寄り、取り囲み、握手を求めた。
 
臨月なのに、授賞式に一緒に行くと言い出したのは一カ月前。
待っていろと残していっても、琴子は無茶をしてでもスコットランドまで来てしまうことは想像できた。
直樹は主催者のノーブル財団に、授賞式はあきらめたいと申し出をしたのだが、財団側が受賞会場近くにある大学病院の病室を用意すると申し出てくれたのだ。

「一緒に行くか」

直樹の言葉に、琴子ばかりではなく、家族全員歓喜に沸いて大騒ぎになった。
万全の準備を整えて、二週間前には現地入りしたが、琴子は体調を崩して一時は危険な状態に見舞われた。
そんな中、直樹は授賞式へと送り出されたのだ。
 
「ママのかわりに琴美がちゃんとついていくから大丈夫」
 
娘の琴美が、直樹の手をとった。
 
「パパ、たくさんおめでとう。ママの代わりだよ」
 
琴美が直樹の頬にキスをする。
その様子に、スクリーンの向こう側で、琴子が何事か叫んでいる。
直樹は少しだけ舌を出していたずらっ子のような不敵な笑みを作ったあと、幸せそうに微笑んでみせた。
 
END
 
 

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